back

失敗したあなたへ

数多くの失敗と付き合ってきて

私は約 5 年間、失敗をリカバリすることを仕事にしていたことがある。ある人が失敗をおかす。その失敗の原因を分析する。二度とその失敗が起こらないように対策をたてる。そしてその対策を携えて謝るべき人に頭を下げる。もう二度とその失敗を起こさないようにする。それが私の仕事だった。トラブルになるべくしてトラブルになった件があった。原因などどこにもないように思えるトラブルがあった。運が悪かったとしか思えないようなトラブルもあった。私が所属していた部署は、ある意味ではトラブルの博物館のようなものだった。様々なトラブルがそこへ持ち込まれ、私達の手によって浄化され、最後には教訓としてガラスケースの中に陳列されていった。広島にある原爆記念館のように、人々はそれを見て、もうこんな過ちはおかすまいと思う。そして実際に、同種のトラブルが起こりにくくなる。博物館の館員として過ごしたことを私は誇りに思っているし、そこで沢山の物事を学んだ。

陳列された教訓を私なりにまとめてみた結果が、次の言葉だ。

人は必ず失敗する。

私達は機械ではない。物事が成功するか失敗するかは、非常に多くの要因が関わっている。準備や段取りが正確で完璧に行われた物事は成功しやすい。これは一般的に言われることだ。しかしそれ以外にも、実行者の精神的状態、関連する物事の進捗、またある場合には天候など、実に多くの要因が結果を左右する。私は、完璧に準備されていたプロジェクトが見事に失敗する現実を見てきたし、準備が不十分で誰もが失敗を予想していたプロジェクトが見事な成果を生み出す現実も見てきた。

準備することが無駄だと言いたいわけではない。それを行うのが人間である限り、どんな物事も必ず失敗をする可能性がある。それを認めることが大事なのだ。そのことを知った上で、努力し続けていくことが必要なのだ。そしてそれは、決して無駄なことではない。

失敗の扱い方

人は失敗をする。そう考えた時に大事なのは、その失敗をどう扱うかだ。その失敗を次に生かす。何故失敗したのか原因を分析する。対策を練り、次へいかす。これは常識として言われていることであり、いささか手垢にまみれているように感じられるかもしれない。今失敗をしたあなたにとっては、単なる美辞麗句としてしか響かないかもしれない。しかし結局のところ、私達はその失敗にたいし考え続けることしかできないのだ。そして先ほども書いた通り、考えることは決して無意味ではない。

考え続けて対策を練り、失敗をいかして立案した計画も、また失敗してしまうかもしれない。失敗してしまう要因は数え切れないほどあるのだから、その可能性は十分にある。しかし、考えるのを止めた時点で私達は前へ進めなくなってしまう。失敗を認めたくない、こんな失敗は二度と嫌だ、そう思うのであれば、次も失敗に終わってしまうとしても、前に進み続けるしかない。別の要因で失敗してしまうかもしれない。しかし、以前におかした失敗と同じ要因で失敗しなかったとしたら、それは私達が前に進んでいることの証明になる。もう一度言うが、考え続けることは決して無駄ではない。助言を求めたり、それがわかるまで何年も悩み続けたりすることだって、決して無駄にはならない。

今失敗したあなたは、そんなことを考える余裕もないかもしれない。今、目の前にある失敗したという事実。色々な人に迷惑をかけてしまったという事実。失敗は取り返せないという事実。一度おかしてしまった失敗は二度と取り戻せない。時間は決して戻らない。

もちろん、私も失敗を重ねてきた一人の人間として言いたいことは痛いほどよくわかる。

しかしだからといって、今それを言っても、思っても、仕方のないことなのではないだろうか? 残念ながら時間は決して逆方向には進まないし、過去におこってしまったことは二度とやり直すことはできない。それは取り戻せない。あなただって、それをわかっているはずだ。だからこそ考えるべきは、次のことなのだ。確かにあなたは失敗をおかしてしまったかもしれない。しかし一度の失敗であなたの人生が終わるわけではない。次につながる反省はするべきだ。だが、時間の浪費でしかない後悔はするべきではない。後悔は役に立たない。あなたがもし何かをしたいと本気で思っているのであれば、それはなおさらだ。人生は短い。なすべきことがある人生では、後悔している暇などない。

次の自分へ・次の世界へ

思い出してほしい。決意を胸に秘めたその時を。思い出してほしい。一歩目を踏み出したその時を。失意にくれている今こそ、思い出してほしい。何かを変えよう、そう思ったその時を。自分を変えようと思ったその時を。

あなたは変われる。あなたが望み、そして望み続けるならば、あなたは変わることができる。根本的な部分で変わることは難しいかもしれない。諺にもあるように、 3 歳で決ってしまう魂を変えていくのは難しいかもしれない。しかし、あなたがおかしてしまった失敗はそんな根本的な問題だろうか? そんなことはない。大部分の失敗は、そうではない。あなたが今悩んでいる失敗だって、そうではないはずだ。そしてあなたもそのことを知っている。だとしたら、あなたが今回の失敗を繰り返さないように変わっていくことは、決して不可能ではない。あなたが望めば、あなたは今回の失敗を糧に変わっていくことができる。そして、あなたが変われば、世界は変わっていく。

人は、失敗によって変わっていくことができる。そして失敗を重ねた人々によって、新しい世界が作られていく。私はそう信じている。そして私は、今日失敗をしたあなたが、そう思える日が来ることも信じている。私はあなたを信じている。

私達は失敗をおかす。必ず失敗をする。しかしそれは、ゴールではない。そのプロジェクトとしては、失敗が結果なのかもしれない。しかし私達はそれをスタートとして、新しい今日を歩んでいくことができるのだ。

あとがき

2005年に職場の同僚へ送った手紙をwids.netに合うように改変し、公開したものです。

更新履歴